MJ Lenderman バイオグラフィー
Jake Lendermanが、3枚目のアルバム『Boat Songs』をレコーディングしてMJ Lendermanとしてリリースしたとき、大きな関心を寄せる者は誰一人いなかった。録音当時の彼は20歳の一ギタリストに過ぎず、ノースカロライナ州の山間の町、アシュビルのアイスクリームショップで働きながら、自分で予定を組んだツアーで自作の楽曲を演奏したり、メンバーとして加わったばかりのバンド、Wednesdayの活動に時間の許す限り参加したりしていた。
しかし、21歳になったとき、パンデミックが起こった。Lendermanは――そのために、これまでアイスクリームを客に提供することで得たよりも多くの収入を州からの失業手当で得た――この突然降って湧いた贅沢な自由時間を堪能した。毎日、本を読み、絵を描き、楽曲を書いた。毎晩、ルームメイトやバンド仲間や親友たちと酒を酌み交わし、傾いた借家でジャムセッションして、皆で大騒ぎしながら思いつくままに歌った。そうやってできた歌詞のなかで翌朝まで残っていたものが、少しずつ形になったのが2021年に自主制作した『Ghost of Your Guitar Solo』だ。その後の2022年の『Boat Songs』はまともなスタジオで大掛かりに録音された。ちょっとした辛辣なジョークや、抜け目なくカジュアルな歌、それにラグタイムな素晴らしいギターソロのある『Boat Songs』は、人を引きつける魅力とクスリと笑わせるところが危ういバランスを保った作品で、この年最大のブレイクスルー・アルバムの一枚だった。ちょうどその頃、Wednesdayにも同じことが起こり、突然、多くの人々がJake Lendermanの次の行動に大きな関心を寄せるようになったのだった。
その次の行動というのが、アルバム『Manning Fireworks』だ。アシュビルのスタジオDrop of Sunで、Lendermanのツアーが休みになるたび4日間ずつ費やしてレコーディングされた。友人であり、度々コラボレートしているAlex Farrarとの共同制作で、Lendermanはほぼすべての楽器を演奏している。これは、彼の4枚目のフルレングスのアルバムであるだけではなく、〈ANTI- Records〉レーベルからのデビュー作で、彼の経歴においても注目すべき進化の結果だ。彼は、いつもどこか不安で方向を見失わせるような暗さのあるユーモアを備えた、とても鋭敏な感性のシンガーソングライターだ。彼は、『Boat Songs』的なものの見方や、人々がいまどれほど凄いものを望んでいるかをしっかり認識した上で、このアルバムを書き、作りあげた。そんなプレッシャーがあっても怯むことなく、むしろそれを利用して、自分がどんなミュージシャンになりたいのかを自らに問いかけた――いつも片隅で当意即妙な返答や辛辣な名言を言うべく待ち構えている滑稽な皮肉屋か、それとも自らの文化的な漂流物の海から気の利いた言い回しを選びだし、自分や自分の世界をリアルに語り、その混乱状態にどうやって自分を合わせればいいのかがわかる者なのか。
彼はもちろん後者を選んだ。その結果が『Manning Fireworks』という、即座に名盤になりそうなアルバムだ。彼の偽りのない内省や観察が、ウィットと悲しみが交差する地点を探しだし、その場所まで聴衆を連れて行く。そんな39分。そう、殺し文句も健在だし、錆びた音色のギターソロもある。それはギターのヒーローを待ち望んでいたインディーズロックのファンがLendermanをお気に入りに決めそうなほどの出来映えだ。(ギターソロと言えば、正真正銘彼のバンドであるthe Windの好評だった昨年のライブ・カセットで、彼がリードギターをやったのをお聴きになっただろうか?凄いの一言だ)そして、そこには新しい形の誠意もあった。Lendermanが、彼の歪んだレンズを通して見た世界を、はっきりとリスナーに見せるのは初めてだ。“どうか笑わないで”と彼は「Joker Lips」のなかで真面目くさって言う。他の誰からも排除される感覚について歌う、人を引きつける楽曲だ。“言ったことの半分しかジョークじゃなかった”。この彼の声にある震えが聞き取れるだろうか? マスクの下にあるその渋面はLendermanの顔から最後にはするりと落ちる。
さて、そろそろLendermanの人となりを話すのに良い頃合いだろう。実のところ彼は、ノースカロライナ州出身の熱狂的なバスケットボール好きなのだが(かつてツーガードとして3ポイントフィールドゴールを一ゲームで10回も決めたことがある)、MJはMichael Jordanとは関係ない。彼の名前は実は、Mark Jacob Lendermanである。両親は、彼が赤ん坊の頃にボナルー・フェスティバルに行ったほどの熱狂的な音楽ファンで、彼自身認めるように、彼よりもモダン・ミュージックについて詳しいという。6人家族で下から2番目に年下の彼は、子ども時代には教会のミサの侍者をしており、カトリックの学校に通っていたが、その後、両親に頼んで公立の学校に行かせてもらい、音楽の講義も受けるようになった。そしてJimi Hendrixのドキュメンタリー『Guitar Hero』が、彼の人生を変えた。これによって、Jimi HendrixやThe Smashing Pumpkinsに夢中になった。5年生のときには、My Morning Jacketの我が道を行くような初期作品を知り、母親のラップトップのパソコンという、いわゆる日曜大工的なローファイな伝達手段を利用して自分でレコーディングするようになった。歌詞は十代の頃から書き始めた。
その歌詞が『Manning Fireworks』では、ついに焦点がしっかり合って鮮明になっている。このアルバムでは、詩人ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ(William Carlos Williams)の詩的な明晰さと、作家レイモンド・カーヴァー(Raymond Carver)のミニマリズム的エコノミーが、作家ハリー・クルーズ(Harry Crews)の強烈な比喩表現に合わさっている。それが容易にわかるのがオープニングのタイトルトラックだ。ここでは、一羽の鳥が暴風に負けるという印象的な瞬間を初めて見ることよりも、見せかけの宗教的な美徳や、愚鈍な日和見主義や、見え透いて意地悪に振る舞う人々への批判が勝つ。いっぽう「Rudolph」では、空想上の場面にライトニング・マックィーン(そう、映画『カーズ』に登場する笑顔のレーシングカーだ)を登場させ、雌鹿を轢いておいて事もなげに“人はどれだけの道を歩けば自分が間抜けだと悟るのだろう?”と不思議がらせている。
聴いてすぐに病みつきになる「Wristwatch」では、その間抜けというのが、Lendermanなのか他の誰かなのか、判別が難しい。その人物は自分が諦めた相手に対して謙虚になるべきなのに、あまりにも自慢気だ。実のところ、このアルバムには自信喪失や、厭世観や、心配事や、アルコール依存症があり、それらは明確に注意深く描写されていて、短編映画のように感じさせる。これらは難解でもなければ曖昧でもない。Lendermanは日々の悩みや情熱を異様なやり方でぞうさなく提示している。
歌詞を読んで重く感じたとしても、『Manning Fireworks』のサウンド自体は軽快だ。悲しみと羞恥心が、R.E.M.のきらめきとDrive-By Truckersの力強さを響かせるギターで表されている。共に南部の大物だ。「She’s Leaving You」では、中年の危機の真っ最中のある父親が浮気をする。それが露見するまでのあいだ、レンタルのフェラーリでClaptonを大音響でかけながらラスヴェガスへ向かう。その道中が、半ば冷笑的な肖像画として描かれている。完璧に声をそろえて一緒に歌えるタイプのアンセムで、両親から不公平に扱われたと感じたことのあるすべての子どもに向けた楽曲だ。そして偉大なる「On My Knees」で表されているのは、より有能なクレイジー・ホース*1だ。Lendermanのひび割れた声が、のこぎりのようなエレキギターに重なるように歌う。これほど多くの人々がデタラメばかり言う世界で楽しむことなんて意味があるのかと、彼は訝しむ。「You Don’t Know the Shape I’m In」でさえも――嫌な出来事についてのアコースティックなブルースで、最初にドラム・マシーンが弾み、それからスネアが鳴り、Lendermanの声をKarly Hartzmanが追う――このアルバムの、存在に関する問いかけという我々が持つだけで幸せとも言える疑問の分析の中では幸せに感じられる。『Manning Fireworks』には、変わることのない悲しみがある。しかし、それは、友好的にも馴染み深くにも感じるもので、自分がいつもよく知っている種類の苦しみなのだ。
Lendermanが『Boat Songs』をレコーディングしたとき、注目していた者は誰一人いなかった。しばらくの間、『Manning Fireworks』の制作によって、かなり注目を浴びるのを、彼は知ることになる。最後の「Bark at the Moon」で、彼は活気のない山間の町にあった子ども時代の寝室に戻り、大都市には行かないと誓い、そうでなければ誰の期待にでも添うように自分を変えると言う。ところが、そうはしないで、彼は夜明け前までジミー・ヘンドリックスの『Guitar Hero』を観ていた。そんなロック・ミュージックに恋した一人の少年にもう一度戻っている。Ozzyのヒット曲*2を真似て獣のように、ふざけて遠吠えもしている。彼と友人たちは、その後7分間姿を消し、吠えるようなドローンと共に彼のギターソロが始まる。それはLendermanがこよなく愛する、彼が生まれた直後に制作されたSonic Youth のアルバムそのものを思いださせる。楽しい気晴らしであり、重要な瞬間でもある。
Lendermanは、自分が書きたい楽曲はどういうものか、今でも分析していて、それらが自分の望むどんな方向へも向けられるとわかっている――あの深夜の借家でのジャムセッションによく似たものにも。今では誰もがそれに注目している。
歌詞
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強風に逆らっても鳥たちは勝てない
いずれそのうち 砂だらけの短パンで
いずれそのうち 君は人を殺す
理解できない質問をされたせいで
ある者は情熱を抱き
ある者は目的を持ち
君は舞台裏に忍び込み
サーカスの女の子たちを追い回す
君は人前で聖書を開いた
聖書の1ページ目を開いた
いずれそのうち
何もかも終わる
原罪への辛い努力も
賭け続けていた馬の名は
「ジョニー・カム・レイトリー」*
君は贅沢な暮らしをしているけど
犬たちには嫌われているようだ
かつては赤ん坊 今はろくでなし
火葬用の薪のそばで花火を操っている
かつては理想的な赤ん坊
そいつが今はろくでなし
火葬用の薪のそばで花火を操っている
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臆病者がジョーカーの口を
ゴム製のマスクにしている
どうか訊かないでくれ
何してるの、なんて
ホテルのシャワーで性液を流しながら
願っている 時間が
もう少し早く過ぎるように
笑わないでほしい ジョークは僕の言葉の
半分だけだから
カトリック教徒ならみんな知ってるよ ローマ法王になれたかもしれないって
カルーア・シューター
飲酒運転でスクーター
坂道でローリングスタート それは
今日の朝が僕を殺そうとしてるから
今日の朝は僕を殺したいらしい
そうだよ 僕はこのTVが大好き
でも本当に観たいのは
僕を必要としている君
そうだよ 僕はこのTVが大好き
でも本当に観たいのは
僕を必要としている君
僕を必要としている君
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路上で目覚めるルドルフ*1
その赤い鼻を滴る露の玉
青と黒のタイヤの跡が
美しい雌鹿に残されていた
ライトニング・マックィーン*2のカットされたシーン
フルスピードで抹消
どれだけ多くの路を歩けば気づくだろう
あいつは最低だ
聖職者の看護師といちゃついて燃え上がるやつがいるか?
僕は神学校へは行かないよ
君と一緒にいられるなら
君と一緒にいられるなら
僕は神学校へは行かないよ
君と一緒にいられるなら
君と一緒にいられるなら
君と一緒にいられるなら
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面白い顔だねって君は言う
それで儲けられるよって
無駄に生きてきたねって君は言う
どうだろうか
僕はバッファローにビーチハウスを持っているし
腕時計は
コンパスと携帯代わり
腕時計が教えてくれる
君は独りだと
今も君のアメージング・グレイスを聴きたいし
全財産を差し出してもいい
今も君のキレイな顔を受け入れられるし
僕にはヒンボ・ドームに停泊中の
ハウスボートもある
それに腕時計には
ポケットナイフと拡声器がついている
腕時計が教えてくれる
僕は独りだと
腕時計が教えてくれる
僕は独りだと
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もう服を着ていいよ
彼女は去っていく
自分の行いについて
謝る時間はない
フェラーリでも借りて
ブルーズでも歌おう
クラプトンの再来だと信じて
バラバラに崩れていく
僕らには他にすべきことがある
辺りが暗くなる
僕らには他にすべきことがある
彼女は去っていく
彼女は去っていく
君は言った
「ラスベガスの夜はきれい」
お金のことじゃない
君はただ光が好きなだけ
部屋が無料ってことの意味は
わかっているけど
ラッキーって感じているだけ
バラバラに崩れていく
僕らには他にすべきことがある
辺りが暗くなる
僕らには他にすべきことがある
彼女は去っていく
彼女は去っていく
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君のことをリップ・トーン*て呼ぼうかな
酔っ払ったその様子から
幸運のお守りを持ったままのびてる
幸運なんて大した意味はなさそうだ
水を飲んだほうがいいよ
吐き気がおさまるから
学ばないとね
集団の中での
振る舞い方を
君は言った「男たちがいるから映画があるし
男たちがいるから『メン・イン・ブラック』がある」
君は言った「ミルクシェイクがあるしスムージーもある」
そんな話が始まるといつも僕は姿を消す
君がガラスを叩けば
サメたちが振り向くかもしれない
振り向かなければ非難されるし
振り向いても非難される
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距離が心を育てるという人もいる
でも僕は知っている
離れてしまうときだってあるんだ
誰もが二人で歩いている
「ノアズ・アーク」*(ウィスコンシン州にあるウォーターパーク)から出て
そこは日曜日のウオーターパーク
僕らはマクドナルドの半旗の下に腰掛けた
衰弱した鳥たちが窓をかすめてボトボト落ちる
君は知らない
僕の気持ちなど
ホテルの部屋にいくつも穴をあけ
歌っている「優しくしてくれればそれで良かったのに
Woah woah woah 優しくしてくれれば
僕に」
クラリネットが
ひとりぼっちのアヒルの散歩を歌う
クラリネットが
ひとりぼっちのアヒルの散歩を歌う
他に何を言えばいい
失恋した友人を励ますために
君は知らない
その人の気持ちなど
君は知らない
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悩まされているんだ
楽しむ人々の性的な夢に
だって休暇で旅行へ出かけたら
みんな最悪の気分になるだろ
毎日は奇跡だし
言うまでもない
庭の穴に巣を作る蜂の脅威は
トラボルタの坊主頭の脅威は
それは遠くの群衆をとらえたTVの雑音? それともただのそよ風?
どこで僕を見つけても
僕はひざまずいているだろう
そんな悪夢に悩まされている
だからいつも起きているんだ
暗闇の中で自分の方舟のことを考えている
窓の外で茂みが揺れて
僕は意味不明の言葉を呟く
しゃっくりが止まらない
何か思いついたけど忘れてしまった
燃える橋を渡る列車のように引き返せない
それは真夜中の静かな小便の音?
それとも川が分かれて小川になった?
どこで僕を見つけても
僕はひざまずいているだろう
太陽が顔を出し 鳥たちが叫ぶ
「寝る時間なのに」
ああ どこで僕を見つけても
僕はひざまずいているだろう
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ゴルフの練習場を失くした
君のどうでもいい意見がほしい
変化があるとありがたい
修正が必要だって言ったね
小細工が必要だって言ったね
ニューヨークには引っ越すなよ
君の服装が変わってしまうから
君の服装が変わってしまうから
SOS
僕は大酒を飲み始めた
君はジェット機で飛び立った
僕の意見には同意
お決まりのギャグにはうんざり
ねえ、何を期待してた?
僕はモナリザを見たことがない
部屋から出たこともない
夜更かししすぎたよ『ギター・ヒーロー』を観て
「Bark At The Moon」を流して
Awoooo
月に吠えろ